俺たち熱帯低気圧

とおや

2014年07月08日 08:53

 終業のベルが鳴り響いた。

「明日は朝から休みだな」

同僚の仲田がスマホを見ながら呟いた。

「もう、わかるのか?」

「まぁ確実に直撃するコースだからな」

「そっか、じゃあ早く帰って台風対策しないとな」

「いやいや、そんなの後でいいしょ?とりあえず、飲みにいこうーぜ」

「え?月曜なのに?」

「明日が休みなら金みたいなもんだろ?ほら、行くぞ」

仲田に強引に腕を掴まれ、しぶしぶ飲みに行くことになった。



職場から廊下に出ると、隣の課の同僚も丁度帰るところだった。

仲田は会う人にどんどん話しかけた。

「もう帰るの?いこーぜ?」

「おいおい、明日は休みだろ?いくべ?」

「今しか飲むチャンスないだろ?」

「台風対策で残業って言っとけよ」

その結果、外に出た時には6人の同僚が捕まっていた。



近くの居酒屋に入ると、中はたくさんの客であふれていた。

これが台風景気というやつなのか?

全国でも見られない沖縄の特色として、学会に発表したいくらいだ。


~ 2時間後 ~

「よし、乗って来たー。カラオケに行くぞー!!」

仲田の掛け声にのり、カラオケ店に行くが、やはりこちらも大混雑していた。

30分待ちでようやく受付に辿り着く。

「ただいま部屋を選んでもらっていまして、通常料金の部屋と3割引きの部屋があるのですが、どちらがよろしいですか?」

「3割引き?その部屋はなにかあるの?」

「クーラーの無い部屋になるんです。故障していまして」

「えっ、クーラーないの?」

「はい、なので割引させて頂いています」

仲田は少し考え込んだ。

「みんな、集合!!」

掛け声とともに、みんなが集まり円陣になった。

「普通のクーラー部屋か、安いクーラー無しの部屋…。どっちを選ぶ?」

「大人なんだから、金払っても快適に過ごそうぜ」

「いやいや、別にクーラーいらないっしょ。安い方でいいよ」

「でも、暑くないかー」

「窓あけりゃーいいんじゃね?」

「そっか、風も強くなってきたし。開けると涼しいはずな」

「カラオケルームに窓なんてねーよ」

白熱した議論の末、出した結論は

「クーラー無しでお願いします」

仲田は受付で手続きを済ませた。


空調の効いた廊下から部屋に入ると、むわっとした空気を感じた。

これは失敗だったかもしれない。

皆もそう思ったのか、部屋に入ると誰もが無口になった。

とりあえず、冷たい飲み物を飲んで身体を中から冷やしていくしかない。

「ビール6つ!!」

電話で受け付けに注文をした。

「どんどん、入れてくぞ!」

仲田は我先にリモコンを取り、手際良く曲を入力し始めた。

ピピッという電子をと共に画面には「恋するフォーチュンクッキー」の文字が表示された。

軽快な前奏がスピーカーから流れる。

酔っ払った男たちは、全員が立ち上がり踊りだす。

途中で可愛い店員が、ビールを持って部屋に入って来た。

クーラーの効かない部屋で、男だけで踊り狂うその様子はツイッターに流されても文句は言えない。



曲が終わった瞬間、汗が滝のように流れ落ちた。

「あっちぃーーーー!!」

まるでサウナのような暑さだ。

思わずカラオケルームの扉を開けてしまう。

その時、再び可愛い店員が現れた。

手には扇風機を持っている。

「どうぞ、これを使って下さい」

そう言うと、店員は笑顔で去って行った。

さっそく、扇風機を部屋の真ん中に配置しスイッチを入れる。

ムンムンとした熱気のある部屋の空気が、扇風機によってかき回された。

送られてくる風は、熱風のまま、一向に涼しくなる気配はなかった。