終業のベルが鳴り響いた。
「明日は朝から休みだな」
同僚の仲田がスマホを見ながら呟いた。
「もう、わかるのか?」
「まぁ確実に直撃するコースだからな」
「そっか、じゃあ早く帰って台風対策しないとな」
「いやいや、そんなの後でいいしょ?とりあえず、飲みにいこうーぜ」
「え?月曜なのに?」
「明日が休みなら金みたいなもんだろ?ほら、行くぞ」
仲田に強引に腕を掴まれ、しぶしぶ飲みに行くことになった。
職場から廊下に出ると、隣の課の同僚も丁度帰るところだった。
仲田は会う人にどんどん話しかけた。
「もう帰るの?いこーぜ?」
「おいおい、明日は休みだろ?いくべ?」
「今しか飲むチャンスないだろ?」
「台風対策で残業って言っとけよ」
その結果、外に出た時には6人の同僚が捕まっていた。
近くの居酒屋に入ると、中はたくさんの客であふれていた。
これが台風景気というやつなのか?
全国でも見られない沖縄の特色として、学会に発表したいくらいだ。
~ 2時間後 ~
「よし、乗って来たー。カラオケに行くぞー!!」
仲田の掛け声にのり、カラオケ店に行くが、やはりこちらも大混雑していた。
30分待ちでようやく受付に辿り着く。
「ただいま部屋を選んでもらっていまして、通常料金の部屋と3割引きの部屋があるのですが、どちらがよろしいですか?」
「3割引き?その部屋はなにかあるの?」
「クーラーの無い部屋になるんです。故障していまして」
「えっ、クーラーないの?」
「はい、なので割引させて頂いています」
仲田は少し考え込んだ。
「みんな、集合!!」
掛け声とともに、みんなが集まり円陣になった。
「普通のクーラー部屋か、安いクーラー無しの部屋…。どっちを選ぶ?」
「大人なんだから、金払っても快適に過ごそうぜ」
「いやいや、別にクーラーいらないっしょ。安い方でいいよ」
「でも、暑くないかー」
「窓あけりゃーいいんじゃね?」
「そっか、風も強くなってきたし。開けると涼しいはずな」
「カラオケルームに窓なんてねーよ」
白熱した議論の末、出した結論は
「クーラー無しでお願いします」
仲田は受付で手続きを済ませた。
空調の効いた廊下から部屋に入ると、むわっとした空気を感じた。
これは失敗だったかもしれない。
皆もそう思ったのか、部屋に入ると誰もが無口になった。
とりあえず、冷たい飲み物を飲んで身体を中から冷やしていくしかない。
「ビール6つ!!」
電話で受け付けに注文をした。
「どんどん、入れてくぞ!」
仲田は我先にリモコンを取り、手際良く曲を入力し始めた。
ピピッという電子をと共に画面には「恋するフォーチュンクッキー」の文字が表示された。
軽快な前奏がスピーカーから流れる。
酔っ払った男たちは、全員が立ち上がり踊りだす。
途中で可愛い店員が、ビールを持って部屋に入って来た。
クーラーの効かない部屋で、男だけで踊り狂うその様子はツイッターに流されても文句は言えない。
曲が終わった瞬間、汗が滝のように流れ落ちた。
「あっちぃーーーー!!」
まるでサウナのような暑さだ。
思わずカラオケルームの扉を開けてしまう。
その時、再び可愛い店員が現れた。
手には扇風機を持っている。
「どうぞ、これを使って下さい」
そう言うと、店員は笑顔で去って行った。
さっそく、扇風機を部屋の真ん中に配置しスイッチを入れる。
ムンムンとした熱気のある部屋の空気が、扇風機によってかき回された。
送られてくる風は、熱風のまま、一向に涼しくなる気配はなかった。